今回は、採用候補書の学歴は職歴を確認する方法について、解説します。学歴や職歴を確認するには、原則、本人に調査の同意書(委任状)を取得する必要があります。卒業校や前勤務先からすれば、個人情報保護法があるため、本人の同意なしに、部外者に在籍記録を開示することはできません。
従って、学歴や職歴を確認したい場合は、採用候補者本人に卒業証明書や在職証明書を取得するように依頼する、あるいは提出された証明書類の真偽の裏取りを別途行う、もしくはその両方が理想的です。証明書類の偽造代行業者がはびこっている昨今、本人提出の証明書類が存在しても、確認せずに信じるわけにはいきません。
- 本人に、在籍していた学校や法人から証明書書類を、調査担当者に直接送信させる。
- 本人から提出された証明書類の真偽を情報ソースに問い合わせて確認する。
学歴確認
日本の大学のほとんどでは、本人に卒業証明書を発行して学歴記録を証明する手法を取っています。通常、その学校が指定する専用の申請用紙や委任状を使って、卒用証明書を取得することになります。
卒業証明書の提出依頼
1番目の方法は、本人に自分で卒業証明書成績証明書を取得してもらい、提出された証明書を元に、卒業校にその証明書が変造されていないかどうかを確認する方法です。
この場合、本人から以下の書類を提出してもらいましょう。
- 卒業証明書
- 身分証のコピー
- 調査担当者への委任状(調査委任状見本)
卒業校での真偽確認
次に、卒業校の教務課に、電子メールでそれらの書類を添付して送ります。通常、この方法で、卒業校から提出した証明書の真偽についての回答が得られます。
卒業証明書や身分証の偽造代行業者は、ネット検索で簡単に見つかります。卒業証明書の偽造専門業者が逮捕された事例もあります。確認せずに、本人の提出書類を信じることはできません。

卒業証明書の代理取得
2番目の方法は、第三者として、本人の卒業証明書を直接取得する方法です。この場合、調査担当者が卒業証明書を代理取得できるよう、本人に委任状を書いてもいます。通常、各学校のウエブサイトで、証明書取得用の申請書や委任状をダウンロードして、本人にその記載と手続きを依頼することになります。
そして、本人が卒業証明書卒業校に依頼する時に、捜索調査担当者の住所にしてもらいます。この方法なら、卒業後から調査担当者に直接証明書が届きますので、内容が書き換えられる余地はありません。
例えば、東京大学(The University of Tokyo)の卒業証明書や成績証明書の確認でしたら、このページに申請方法の説明があります。
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/alumni/alum-services/f03.html
メディアサーチでの学歴確認
在学中の部活動オンライン記事や、ソーシャルメディア、過去の新聞記事などで、採用候補者の名前がヒットする場合があります。本人の自己申告記事以外の客観的な記事で、在籍が確認取れれば、それで在学があったと認定してもいいかもしれません。
大学院卒業者の卒業確認
大学院卒業者であれば、修士論文や博士論文が、国立国会図書館の文章リストに収録されている可能性が高いです。大学院卒業者の場合は、ほとんどの場合、国立国会図書館のデータベースで卒業確認が可能です。
同窓会名簿での学歴確認
2005年の個人情報保護法施行以前は、日本国内のほとんどの高校や大学の同窓会名簿が名簿業者に流通していました。
今も、ERA(イアラ)などの、名簿業者に、2005年以前に流通していた同窓会名簿のストックがあります。現在10年以上の採用候補者であれば、過去の同窓会名簿で、卒業確認が可能です。
在職確認
在職確認に関しては、法人ごとに在籍確認の問い合わせに対しての対応ポリシーが異なります。事前に、対応ポリシーを問い合わせて、それに合わせて、臨機応変に確認するしかありません。
パターンとしてはおおよそ以下のような4パターンがあります。
- 在籍者本人に対し在職証明書を発行する方法のみ。提出された在職証明書の真偽確認にも応じない。
- 在職者からの委任状と身分証を用意すれば、調査担当者に在職証明書を発行する。
- 在職者からの委任状と身分証を用意すれば、電子メールや電話で回答する。
- 在職者からの委任状がなくても、電子メールや電話の確認で、在籍期間のみ回答する。
委任状を元に直接確認
本人からの身分証や委任状があれば、在職確認の応じる法人であれば、本人が在職していた法人へ直接連絡し、確認を行います。法人の人事担当者の電子メールを聞き、必要書類を添付して、確認依頼します。
在職証明書の取得
前勤務先での在職を正式に確認する場合、前勤務から、在職証明書を取得することになります。
退職した前勤務先でなく、採用候補者が、まだ勤務中の勤務先で在職確認をする場合、注意が必要です。本人が、転職活動をしていることを現勤務先に知られたくない場合があるからです。その場合は、現勤務先の健康保険証等の確認だけに留めるなど、採用候補者に配慮した方がいいでしょう。
在職証明書の記載事項
在職証明書は、法令で記載事項が決まっているわけではありません。そのため、請求者が、使用目的と記載事項を指定し、それに応じて発行されます。退職した前勤務先でも、在職証明書の発行を求めることが可能です。後述するように、労働基準法で定められた退職証明書という法定書類もあります。
退職証明書と在職証明書は似ていますが、性質が異なります。在職証明書で、退職証明書と同様の記載事項を求めることも可能です。詳細な証明を求める場合は、以下の事項が記載されます。
- 氏名
- 生年月日
- 住所
- 雇用期間
- 雇用形態
- 役職
- 業務種類
- 所属
- 勤務地
- 解雇事由(退職済みの場合)
在職証明書の取得目的
在職証明書の取得目的は、通常、以下のような目的です。転職や副業の活動の際に、在職証明書を取得することは不自然なことではありません。
- 転職や副業活動の為
- 保育園・保育所、私立学校などへの願書申請の為
- 住宅ローンの為
- 賃貸住宅契約の為
- 外国人労働者の就労ビザ申請・更新の為
ただし、中小企業や零細企業などでは、在職証明書を発行した経験がなく、何を記載すればいいか、どのようなフォーマットにすればいいか、戸惑う場合があります。そうした場合には、調査担当者が本人に記載事項を明確に指示したのち、取得を促すことををお勧めします。
退職証明書の取得
在職証明書とは別に、労働基準法で、申請があれば発行を義務付けられている、退職証明書という書類もあります。
企業は、労働基準法第22条1項により、退職者の請求に応じ、退職証明書を発行する義務があります。退職者の請求拒否や理由なく遅延した場合、労働基準法違反で30万円以下の罰則に処されます。ただし、退職証明書の発行義務の時効は2年間です。退職後2年以上経過していれば、退職証明書の発行の義務や罰則はありません。
退職証明書の記載事項
退職証明書の記載事項は、以下です。
- 雇用期間
- 業務の種類
- 地位
- 賃金
- 退職理由(退職希望者の請求に応じて記載)
- 厚生労働省 主要様式ダウンロード
- 退職事由に係るモデル退職証明書
ちなみに、請求者が解雇事由の記載を望まない場合、企業は解雇事由の記載してはなりません。退職証明書発行の義務は、労働者を守るための法律です。労働者側の転職や失業保険給付など速やかに促進するため、厚生労働省が、企業側に迅速に退職証明書を発行するように義務づけているわけです。
したがって、退職証明書の書式で、解雇事由を無理に記載させるよう本人に強要するとトラブルになるかもしれません。万が一採用候補者が、労働組合(ユニオン)の会員だったりすると、問題です。解雇事由を記載した退職証明書の提出を強要したことをユニオンに報告された場合、ユニオンから抗議される可能性があります。
メディアサーチでの確認
採用候補者本人が、前勤務先に在職中に会社を代表して広告記事に出ていたり、セミナーのスピーカーをやった経緯があれば、オンライン記事や新聞記事横断検索などで在職事実が確認できる場合もあります。
電話での覆面確認
中小企業や、大企業でも部署や役職が特定されている場合、電話で本人を呼び出して、そのリアクションで在籍確認する方法も可能です。調査担当者は、本人が退職済みなことはわかっていますが、本人の知人などのふりをします。
そして、前勤務先に電話して、本人を呼び出します。過去の同僚や人事担当者が出れば、本人が、退職済みであることを告げます。
このような覆面電話での確認だと、在職期間まで聞き出すことはできませんが、在職していたかどうかと、おおよそいつまで勤務していたかが、確認できます。
在職証明書が提出されていたとしても、会社によっては、その真偽の確認に非協力的なところがあります。その場合は、電話での覆面調査も行って、裏取りした方が無難です。
まとめ
以上、日本での学歴確認や職歴確認の具体的な方法について解説しました。経歴詐称押している不適切な人物を採用してしまうと、企業としては大変な損失を被る可能性があります。また、採用時に経歴確認を行わないという噂が広まれば、経歴詐称で高額な給料を不当利得する悪質な人物を採用してしまうリスクが増大します。
更に、身分証、卒業証明書、資格証明書の偽造代行業者がネット検索で簡単に見つかる時代ですので、提出された書類の確認まできちんと行わなければなりません。自社内で調査に専念できる人材がいるのであれば、学歴や経歴の確認方法を学び、インハウスでの経歴確認調査を実践することをお勧めします。