諜報機関と探偵(4)‐ 米国イラン人記者拉致未遂事件

Japan PI >> ブログ >> 事件の解説 >> 現在のページ
iran

「諜報機関と探偵」連載の最終回では、民主化運動化である、米国在住のイラン人記者の拉致未遂事件について解説します。

イラン人記者拉致事件

2021年7月、イラン系米国人ジャーナリストのマシー・アリネジャド(Masih Alinejad)氏の拉致を計画したイランの情報機関関係者4人がニューヨークの連邦地裁で起訴されました。イランの諜報機関は、人権活動家であるアリネジャド氏の言論弾圧の為、彼女をイランに連行する予定でした。この拉致計画に関わった4人はイラン在住で、米当局は、彼らを逮捕できていません。

ソース: Masih Alinejad – Instagram

今回の拉致計画を主導したのはイラン情報機関幹部のアリレザ・シャバロギ・ファラハニ被告です。司法省によると、ファラハニ被告と工作員3人は、2020年6月ごろからジャーナリストの拉致を計画していました。身元や目的を偽り、探偵会社にジャーナリストの監視や写真・動画の入手を依頼しました。ニューヨークの港から軍事用高速艇で拉致し、イランと友好関係にあるベネズエラ経由で移送する計画でした。

今回の疑惑についてイランは「事実無根」としています。

財務省の声明によれば、ファラハニ被告を含む4人は、イラン政府批判を封じることを目的とした広範囲にわたる活動の一端に従事していたようです。2019年10月、滞在先のフランスから第三国に誘い出されてイラン情報機関に拘束され、2020年12月にイランで死刑が執行された別の反体制活動家の連行計画にも関与していました。また、カナダや英国、アラブ首長国連邦(UAE)でも反体制活動家を監視していました。

この4名は、FBIから指名手配され、米財務省の制裁リストにも入っています。万が一彼らと取引すれば、取引に応じた人も制裁対象とされてしまいます。

以下は、この事件で、氏名手配されているイランの諜報機関の関係者のリンクです。

Alireza Shahvaroghi Farahani (アリレザ・シャバロギ・ファラハニ) 

 

Mahmoud Khazein(マフムード・カゼイン)

 

Kiya Sadeghi (キヤ・サデギ)

 

Omid Noori(オミッド・ヌーリ)

イランの諜報機関の依頼指示

詳細の指示を通知する電子メールで、起訴された4人のイラン諜報機関の1人であるKiya Sadeghiは、私立探偵に、アリネジャドの郵便受けの封筒の写真を撮るように指示しました。「彼らは警戒しているので、どうか目立たないようにお願いします」と彼は書いています。 彼らは、ドバイで債務不履行で逃げている行方不明者を探しているというカバーストーリーで探偵に依頼していました。

WADの回覧メール

2021年7月15日、WAD (World Association of Detectives = 世界探偵協会)の回覧メールで、ニューヨークの探偵から以下の内容が通知されました。その内容をご紹介します。ちなみに、WADは、世界中の探偵が所属する世界最大の探偵協会です。

同僚へ

以下に、説明を必要としないDOJプレスリリースを示します。 特に、太字の部分に注目してご覧ください。 私たち(NYの探偵)は皆そこにいました:悪意のある人々が、所在調査や行動監視調査の結果を策略で入手しようとしています。私の知る限り、地元の探偵は彼らの「クライアント」の身元を疑うことは決してなく、完全に無実(善意の第三者)でした。

NYPDインテリジェンスビューローはあっぱれ。

以下は、この回覧通知メールで引用されたDOJ(米司法省)の発表記事の一部の訳文です。

DOJマンハッタンの米国弁護士がイラン人に対する誘拐陰謀容疑を発表

2020年と2021年に、何度も、被害者を誘拐する計画の一環として、ファラハニと彼の協力者は、ブルックリンで被害者とその家族を監視、写真撮影、ビデオ録画するために、私立探偵を雇いました。

ファラハ二らが依頼した監視には以下を含んでいました。

  • 被害者の自宅とその周辺地域での数日分の行動確認調査
  • 被害者の家族や知人のビ写真撮影とビデオの自動録画
  • 被害者の戸外での行動追跡

特に、被害者の自宅週右辺の画像、家族や訪問者の高品質な写真撮影とビデオ録画が要求されていました。加害者は、探偵に彼らの身元と調査目的を偽り、調査料金の支払いでは、イランから米国にマネーロンダリングを行っていました。

サデギは、米国の探偵とのネットワークの主要な連絡窓口として機能し、NOORIは、被害者を対象とした行動確認調査の計画を実施するにあたり、探偵への支払方法の工作を行いました。

まとめ

以上、「諜報機関と探偵」の連載では4回に渡り、国際的な特殊工作における諜報機関やそれに関わる探偵の実態に触れてきました。非民主的な国家からの弾圧のための、亡命者に対する襲撃や拉致の案件では、特殊諜報機関の工作員達が現地の探偵に調査委託するケースもあります。

暴力で言論弾圧することは、人権侵害であり、現代社会では許されないことでしょう。そして、非民主主義的な国家は悪であり、民主主義国家が正義であるというのが世の中の定説でしょう。

一方で、非民主主義国家の諜報機関の工作員も人間です。彼らは、国家の為に体を張って、特殊任務に従事しています。リアル探偵としては、司令を受けて現場で奮闘する工作員達の気持ちもわかります。上官の命令に忠実に従い、様々なアイディアを駆使して、特殊工作を実行していく苦労もよくわかります。また、彼らは、自国では、自国の国益を守る為に必死でがんばっているだけかもしれません。

ただし、探偵は、国外からのテロ行為を企図する諜報機関の工作員に強力するわけにはいかないので、国際情勢を見極めて、依頼案件の適格性をじっくり見極める為の努力を一層強化していく必要があります。


参考資料:

毎日新聞|イラン工作員ら起訴 記者拉致計画か 米司法省発表

Arab News | 米国 ニューヨーク在住記者拉致計画めぐりイラン人容疑者に制裁

New Yorker | Iran’s Kidnapping Plot Exposes Its Paranoia

関連する記事

信頼できる専門家による調査が必要ですか?Japan PIにお任せください

上部へスクロール
Scroll to Top