プライム事件 – 探偵業と情報屋

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日本の探偵業と個人情報保護法


日本の探偵業と個人情報保護法の関係性を理解するため、私達は、今回、プライム事件について解説します。プライム事件とは、2011年から2013年まで、探偵の情報源であった情報屋が、不正情報取得や情報漏洩で一斉摘発された事件です。

日本の探偵業には、届出制度はあるものの、ライセンス制がありません。探偵という職業の地位が、確立されていません。


そのため、調査上、必要となる情報ソース(住民登録、車両登録、携帯電話登録、等の情報)に対しての、職務請求権がありません。また、日本では、社会インフラのデータを保有する団体への第三者開示請求に関する法律が整備されていません。

弁護士には、弁護士法23条照会という情報請求の権限があります。一方、調査を専門とする探偵業には、そのような職務権限はありません。そうした環境下で、相談者のニーズに答える為、日本の探偵業界は、様々な情報収集ルートを確保していました。

しかし、結果が悪用されたいくつかの事件が発生しました。その結果、探偵が活用していた多くの情報源を失う結果となりました。


プライム事件の概要


2010年10月の、愛知県警警部脅迫事件が発端となり、プライム事件が始まりました。2011年から2013年にかけて、探偵業の情報ソースの情報屋とその関係者が、一斉に摘発されたました。

この一連の事件で、最初に逮捕されたのが、プライム総合法務事務所でした。
そのため、この事件は、プライム事件と呼ばれます。プライム社は、暴力団の弘道会から調査を依頼され、愛知県警の警部の戸籍謄本を取得しました。

彼らは、その戸籍謄本に記載されている警部の家族の名前を報告しました。
警部には、高校生の娘がいました。暴力団は、警部の娘の襲撃を示唆し、警部を脅迫しました。彼らは、警部に、警察の捜査情報を漏洩させるよう脅迫しました。

愛知県警は、暴力団から脅迫されたので、過剰反応しました。警察は、探偵の情報ソースを一斉摘発することにしました。脅迫した暴力団を逮捕するだけではなく、暴力団に情報提供する可能性がある探偵の情報ソースを一掃することが、根本的な問題解決になると、警察は考えました。


プライム事件のきっかけ

プライム事件(愛知県警による探偵の情報屋の一斉摘発)のきっかけとなった事件は、以下です。

愛知県警警部脅迫事件では、暴力団が、捜査担当の刑事の娘の名前を調べて、刑事を脅しました。「女子高生のお前の娘がどうなってもいいのか?」

愛知警察は、刑事の戸籍謄本が調査されたことに気がつきました。そして、探偵の指示で、司法書士が戸籍謄本を取得したことが判明しました。愛知県警は、探偵の情報ソースをつぶせば、暴力団が二度と戸籍謄本の情報にアクセスできないと考えました。

逗子ストーカー殺人事件では、加害者の男性が、探偵に被害者の現住所を調査させました。その結果、加害者が、被害者の自宅で、被害者を殺害し、自殺しました。

プライム事件以前は、探偵が情報源を利用して情報収集することは、違法とされていたわけではありません。プライム事件で、従来の法律の解釈が変更され、情報源を利用した調査手法が、違法とされました。


情報源の一斉摘発


プライム社は行政書士法人でした。彼らは、独自に探偵業務の集客していたわけではなく、名古屋の探偵業界の情報卸業者(エージェーLP)の下請け業務をしていました。

プライム社の逮捕をきっかけとして、愛知県警は、情報卸業者や他の情報ソースの一斉摘発へと捜査を拡大しました。エージェーLPは、日本全国の探偵社を顧客とする情報提供の総元締めでした。

エージェーLPは、公簿を取得できる行政書士に限らず、携帯電話会社、信用情報センター、役所等、様々な、情報源を持っていいました。エージェーLPは、自ら調査をしていたわけではありません。彼らは、日本全国の探偵社と、個人情報の情報源(行政書士や内通者)を仲介する仲介業者でした。


情報屋の逮捕


2012年9月、名古屋の情報屋のエージェーLPの代表ら3人が逮捕されました。
彼らは、過去5年間で12億7,000万円の利益がありました。


エージェーLPの代表は罰金200万円、従業員2名は罰金100万円の有罪判決を受けました。愛知県警警部脅迫事件での戸籍の不正取得事件のみが起訴されました。その他の、情報源の仲介業務では、彼らは、無罪でした。

探偵の様々な情報源

プライム事件では、戸籍・住民票の情報源の摘発から始まり、職歴情報、携帯情報、車両情報、住基情報(住所、離婚歴、所得等)、信用情報(借金)、ライフライン等の情報源の摘発へ発展しました。
以下は、摘発された情報源についての個別の捜査結果です。


プライム戸籍ルート


2011年11月、横浜の探偵社、プライム社長、司法書士、行政書士、元弁護士等の5人が逮捕されました。彼らは、住民票や戸籍謄本の職務請求権がある行政書士や司法書士を使って、戸籍等を不正取得しました。

彼らは、偽造した職務請求書を使い、不正が発覚しないよう隠蔽工作をしていました。行政書士会や司法書士会は、会員の為、専用の職務請求書を発行しています。
協会は、会員が職務請求書をいつどこで何に私用したか、記録しています。その為、プライム社は、協会に不正が発覚しないように、偽造した職務請求書を使用しました。


彼らは、3年間で1万2,500件の公簿を取得し、2億3500万円の売上を得ました。プライムの社長は、懲役3年の実刑、横浜の探偵社の社長は懲役2年6月の実刑、司法書士は罰金250万円、元弁護士は懲役2年(執行猶予4年)、職務請求書を偽造したグラフィックデザイナーは懲役1年6月(執行猶予3年)の有罪判決をそれぞれ受けました。


群馬の戸籍の情報源


名古屋のエージェーLPは、戸籍入手に関し、プライム社とは別に、群馬の戸籍情報源も持っていました。2012年9月、群馬の調査会社ベルリサーチの社長、東京の調査会社SRC社長、そして、共犯の行政書士が逮捕されました。

この情報源も、2万件を超える公簿を取得しました。SRCの社長は、元警察官です。彼は、1978年に東京行政書士会へ入会し、1993年頃から探偵向けの戸籍の情報源になりました。

SRCの社長は、1年間で、1億5千万円、群馬の探偵のベルリサーチの社長は、4年間で、4億5千万円を稼ぎました。
公簿1件の取得費用は、1万円でした。


信用情報ルート


プライムの社長と横浜の探偵社は、公簿の不正所得以外でも、信用情報機関からの債務情報の不正取得で、2012年1月に、再逮捕されました。彼らは、東京の貸金業者を通じて、日本信用情報機構から2200人の債務情報を取得しました。


因みに、プライム事件とは別ですが、2012年4月には、採用調査目的で、債務情報を取得していた、東京の探偵社と貸金業者が逮捕されました。


職歴情報ルート


2012年6月、ハローワーク横浜の職員と神奈川県の探偵社が逮捕されました。
ハローワーク横浜の職員は、1件1万円で、職歴情報を神奈川の探偵社に販売していました。


ハローワークでは、全国7千万人分の職歴情報をデータ検索可能です。この職員は、4年間で、3,000件以上の職歴情報を販売しました。職安職員は、懲役2年(執行猶予3年)、神奈川の探偵社の社長は、懲役1年6月(執行猶予3年)の有罪判決を受けました。


携帯電話ルート


2012年6月頃、1,200件の顧客情報漏洩の容疑で、岡山のソフトバンクの店長と広島の探偵社、香川と広島のソフトバンクの店員(133件)、東京のドコモの職員(880件)、千葉のauの店員(50件)など、各地の携帯電話系の内通者と探偵社が逮捕されました。


車両登録ルート


2012年7月に、長野県警の巡査部長2名、長野県の元警察官の探偵が、車両登録情報の漏洩の容疑で逮捕されました。長野県の探偵は、名古屋のエージェーLPに、車両登録情報を、1件1万3,000円で販売し、数年間で約6,000万円稼ぎました。

他に、運輸局の職員と大阪の探偵も、車両登録情報漏洩の容疑で逮捕されました。
運輸局の職員は、1件1万2,000円で、大阪の探偵社へ情報提供しました。
2011年の1年間で、300件以上の情報提供がありました。


市区町村の住民基本台帳ルート


2012年10月、市区町村の住民登録情報の漏えい容疑で、千葉県船橋市の市民税課の非常勤職員と千葉の探偵が逮捕されました。

市区町村の住民登録データでは、氏名、生年月日、住所、転居歴、家族構成、勤務先、年収、離婚歴などが入手可能です。


ライフラインルート

2012年11月、関西電力コールセンターの契約社員と大阪の探偵社の代表が、情報漏洩の容疑で逮捕されました。彼らも、名古屋の情報屋エージェーLPにつながっていました。

電気契約のライフラインのデータベース検索は、以下のような場面で利用されました。

  • 氏名からの住所検索
  • 賃貸物件の住所(部屋番号)からの契約者名(居住者名)の検索
  • 氏名と対象者が入ったマンションの住所からの部屋番号を検索
  • 氏名とおおよその住所からの住所の検索(住民票登録がない個人の実住所の割り出し)


偽装電話ルート


2013年11月6日、愛知県警は、不正競争防止法違反で、東京の探偵社2社(TCCと他1社)を逮捕しました。TCCは、ライフラインのガス会社の情報を偽装電話で聞き出しました。

これは、神奈川県逗子市で発生した逗子ストーカー殺人事件に関連した事件です。
この事件では、ストーカー殺人の加害者男性が、探偵に被害者の女性の現住所を調査させました。

加害者は、被害者の自宅で、被害者を殺害した後、自殺しました。2015年1月20日、名古屋地裁は、TCCの社長に、懲役2年6月、執行猶予5年(求刑・懲役3年)の判決を出しました。

京葉ガスへの偽電での不正競争防止法違反等、その他1件の個人情報不正取得事件の3件で起訴されました。


TCC事件の詳細


TCCには、逗子の市役所への偽装電話をした容疑がありました。結果的に、TCCは、逗子市役所から被害者の住所を入手したわけではなく、他の調査との組み合わせで、被害者の住所を特定しました。

TCCは、偽装電話での情報収集(ソーシャルハッキング)が得意な探偵でした。
殺人が起きる前、神奈川県警は、加害者をストーカー罪で逮捕していました。
その時、警察は、被害者の結婚後の姓と居住している市区町村を通知しました。
なぜなら、警察は、加害者を逮捕するとき、逮捕容疑の被害者の情報を読み上げて、罪状認否を行うからです。

加害者は、警察から被害者の結婚後の名字と逗子市に居住していることを知り、その情報を元に探偵を雇いました。TCCは、被害者女性の夫を装い、市役所に偽装電話したとされています。

「妻の住民税の支払いを銀行引き落としに変えたのに、まだ請求書が郵送されている。登録がどうなっているか確認したいです。登録情報を読み上げてください亅


戸籍取得=部落差別?


住民票や戸籍謄本は、日本で、出生、結婚、離婚、死亡、国籍等を証明する公的な書類です。しかし、一方で、過去の身分制度に基づく差別に反対する人権団体(部落開放同盟や人権啓発センター)は、戸籍謄本に差別を助長する要素があると定義しています。

戸籍謄本は、社会的身分を記載した項目は含んでいません。しかし、厳密に言うと、戸籍謄本は、過去の住所履歴や先祖の出身地を含みます。

昔、被差別階級者だけが強制的に居住させられたいた部落がありました。ただし、現在では、昔の被差別部落の所在地は消失しつつあります。採用調査や結婚調査で、元被差別階級出身者である採用候補者や結婚相手を排除するケースがあると言われたいます。

しかし、現代では、そうした慣習も、ほとんどなくなっています。部落解放同盟や人権啓発センターは、政治的な利権を守る為の圧力団体化しているのが現状です。戸籍謄本の確認が人権侵害であるという彼らの主張は、実態からややずれています。


まとめ


探偵の報告結果が犯罪に利用された事件が発生しましたことは事実です。民事的な問題で、情報開示が必要な案件があります。

しかし、情報開示をするときのの適用ルールが整備されていない問題もあります。
探偵業の社会的意義がある案件として、以下のような事例があります。

  • 音信不通の相続人を捜索する
  • 所有者行方不明の土地の所有者を捜索する
  • 養育費未払の元配偶者の住所や勤務先を調べる
  • 悪質な債務者の所在を確認する
  • 詐害行為の相手方の所在を特定する
  • 蒸発した親族の所在を特定する
  • 浮気の慰謝料請求の相手方の身元を特定する
  • 債務不履行の相手の隠し資産を調べる
  • 片親の子供の連れ去り問題の解決

探偵は、民事的なトラブルをかかえている依頼者を救済しています。
そういう意味で、探偵業の社会的意義が見直され、情報開示に関する法律が整備されるべき時期にきています。

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