山口県阿武町誤送金事件、国税徴収の資産調査|興信所が解説

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今回は、阿武町の4630万円の給付金誤送金事件に関連して、資産調査と債権回収の方法について、民事と国税徴収で、どれほどの違いがあるかを解説していきます。

この事件では、行政側は、通常民事の債権回収とは別に、国税徴収法の資産調査と差押え、刑事告訴の圧力、カジノ決済代行業者への圧力工作といった種々の裏技を駆使して、債権回収を成功させました。

民事債権回収と国税債権回収

民事の資産調査や債権回収は実効性に問題があり、債権者が悪質な債務者に泣かされるケースが多々あります。

民事案件は、私債権の回収となるので、資産調査の特別な権限はありません。債務者の資産は自力で調べるか、債務者の自己申告による財産開示手続きに頼るしかありません。実効性に問題があり、社会的信用に関係ない悪質な債務者に対しては無力です。

一方、行政の租税徴収の場合、私債権の回収とは違い、強力な捜査権限があり、裁判所を通さず、いきなり差押さえが可能です。

阿武町4630万円誤送金事件の流れ

以下、事件の時系列の流れを列記します。

  • 2022年4月6日、山口県阿武町が4,630万円をT氏に、誤送金。
  • 2022年4月8日、阿武町が銀行から指摘を受け、誤送金に気づく。T氏は、阿武町の返還要請を無視。資金を、オンラインカジノの決済代行業者に、以後11日間で34回に渡り、出金。阿武町が、自治体の顧問弁護士の中山弁護士に委任。
  • 2022年5月12日、阿武町が、T氏に、弁護士代金を含む5,116万円の不当利得返還訴訟提起。
  • 2022年5月18日、T氏、電子計算機使用詐欺で逮捕。
  • 2022年5月19日、阿武町国税徴収法に基づき、決済代行業者の口座差押さえ。
  • 2022年5月20日、決済代行業者3社が、4,300万円、阿武町に返金。T氏は、4630万円の返還義務を認諾。
  • 2022年6月8日、T氏、再逮捕

国税徴収法の最強の裏技

この事件では、阿武町の誤送金が一番の問題です。しかし、T氏が国と世論を敵に回す無軌道な行動を取ったことから、T氏は、結果的に、国や自治体側から、過激な裏技で追い込まれました。また、日本ではグレーソーンで営業するカジノの決済代行業者も、国家の圧力工作に屈して、自主的に資金返還を行いました。

国税徴収法の資産調査

税務署や自治体は、国税徴収法と地方税法で、債務者の財産調査の権限が与えられています。

阿武町は、T氏が、国民健康保険料を滞納していたことに目をつけ、国税徴収法を適用して、財産調査を行いました。この調査権限を使って、T氏が送金を受けた銀行口座の入出金履歴を調査しました。これで、カジノのデビット決済出金や決済代行業者3社への国内銀行振込出金の状況が確認できました。

普通の民事案件なら、送金先として登録されているT氏の銀行口座を急いで仮差押するしかありません。しかし、実際は、T氏はすぐに、カジノの決済代行業者に全額を出金していたので、仮差押は空振りです。

資産調査が自由にできる権限が最大のポイントです。資金の流れがわからなければ、差押えのしようがありません。

ただし、数万円程度の国民健康保険料の滞納で、国税徴収法や地方税法を適用することが本当に妥当かどうかはわかりません。こじつけ感は否めないとことです。

不当利得返還請求訴訟と刑事告訴

2022年5月12日、阿武町は、通常民事の債権回収と同様、不当利得返還訴訟も提起していました。しかし、これは、他の圧力工作をバックアップするための補助手段としてのものでした。

そして、刑事告訴の結果、5月19、T氏は、電子計算機詐欺罪で山口県系に逮捕されました。

民事事件のみならず刑事事件でも追い込まれれば、T氏は、処罰軽減のために、誤送金の返還を認めるしかありません。5月20日、T氏は、誤送金の返還を認諾しました。

この認諾が、その後の債権回収に生かされました。

国税超徴収法の差押え

国税徴収法を使えば、裁判所を通さず、スピーディーに直接差押えが可能です。更に、債権額にかかわらず、全財産を差押さえできます。例えば、数万円の税金滞納でも、数千万円の資産価値のある銀行口座や不動産を全額差し押えできます。

阿武町は、T氏から入金があったカジノの決済代行業者の銀行口座を、T氏の口座とみなして、差し押えしました。その根拠は、T氏の国民健康保険料滞納のための国税徴収法と租税徴収法です。

決済代行業者の銀行口座は、T氏の入金専用口座ではありません。しかし、国税税徴収法は、債権金額にかかわらず、全額差押えが可能という最強の法律です。

決済代行業者への圧力工作

T氏がオンラインカジノ用に入金した明細は以下の通りです。

  • A社 – ¥35,924,691(入金回数27回)
  • L社 – ¥3,000,000(入金回数1回)
  • M社 – ¥4,000,000(入金回数1回)
  • デビット決済 – ¥3,401,071(入金回数5回)

利用した、決済代行業者は、正式発表されていませんが、以下の業者であると噂されています。3社とも日本国内の銀行口座を保持していて、東京に事務所もあると報道されています。

  • A社 = AstroPay (AP Global Corporation LLP)
    • 米ドル建ての入金
  • L社 = LiLiBet https://ja.lilibet.com/
    • オランダ領キュラソー王国のカジノ
    • 日本円国内入金可能
  • M社 = ミスティーノ Mystino https://www.mystino.com/ja/
    • オランダ領キュラソー王国のカジノ
    • 日本円国内入金可能

※デビット決済は、2022年6月13日現在未回収

阿武町は、国税徴収法を盾に、T氏の取引銀行へ圧力をかけ、決済代行会社3社の連絡先を確認しました。そして、5月19日に、阿武町の職員が決済代行会社3社の東京の事務所を訪問し、差押え命令の書類を届けました。

阿武町は、オンラインカジノの決済代行業者には、以下のような主張で圧力をかけました。

  • 決済代行業社は、国外でカジノライセンスがあるといっても、日本国内では違法な賭博行為を助長している。
  • 決済代行業者との間の委任契約は公序良俗に反する契約で無効。
  • 犯罪収益移転防止法やマネーロンダリングのガイドライン違反の刑事告訴をする用意がある。

その結果、5月20日、決済代行業者3社は、T氏からの入金額全額を自主的に、阿武町に返還しました。他国で合法なオンラインカジノも、日本国内では違法という解釈も可能です。そして、決済代行業者側も日本国内の顧客の集客のため、日本に事務所を設置し、顧客からの入金用に日本の銀行口座を保有していました。

T氏の利用していたメガバンクも、公序良俗に反する団体に口座を開設したとなれば、金融庁から処罰を受ける可能性があります。決済代行業者も、先行投資して日本での商圏拡大をしているのに、反社扱いされてはたまりません。そうした事情から、自主的に返還に応じたものと思われます。

債権回収の仕上げ

決済代行業者3社から、阿武町の口座に全額返還されました。しかし、それだけだと、阿武町は、T氏の滞納国民健康保険料の滞納分しか回収できません。そこで、T氏が返還を認諾した事実を利用しました。

T氏本人が返還を認諾していることを根拠に、残りの金額を差押えました。

決済代行業者の金融庁登録

銀行業法では、決済代行業者は、銀行業法で、金融庁に登録を行わないといけないことになっています。

カジノの決済代行業者は、金融庁では、電子決済代行業者として登録はされていない模様です。もぐり営業なのかもしれませんが、正式発表がないので、真相は不明です。

私債権の回収と租税債権の回収

誤送金問題は、阿武町側のミスで発生した私債権でした。T氏が返還を拒否したため、阿武町は、通常の民事案件と同様、裁判所を通して、仮差押や不当利得の返還請求訴訟で回収していくしかありません。

これだと、資金移動後の資産の流れの調査が不可能で、仮差押も、勝訴判決もほぼ無意味な状況です。

一方、税金の滞納の場合、国税徴収法・地方税法に基づき、行政機関は、対象者の全て(預貯金、不動産、動産、給与等)の財産に対する絶対的な調査権限が発生します。

預貯金に関しては、金融機関の管理団体を通して、一発検索でき、口座情報や入出金明細に至るまで完全な回答が得られます。

不動産に関しては、固定資産税データベースで、動産に関しては、重量税のデータベースから一発検索可能です。

給与に関しても、厳選徴収や確定申告データベースから、給与支払い報告書データが一発検索できます。

まとめ

民事事件の資産調査を扱う興信所としては、国税の債権回収に比べ、私債権の回収が、あまりにも無力であることを日頃から痛感しています。第一に、民事事件では、対象者の資産調査の権限がありません。

弁護士照会はあまり機能せず、本人による財産開示手続きや裁判所の調査嘱託も強力とは言えません。民事の私債権の回収には実効性に大きな問題があり、興信所としては、悪質な債務者に泣かされる債権者を見るばかりです。

興信所としての捜査権限の問題というより、私債権の回収と国税債権の回収の実行力に差がありすぎることが問題だと思います。

教育、勤労、納税は、憲法で規定される国民の三大義務です。だから、納税の債権回収が私債権の回収より優先することはわかります。

ただし、少なくとも、資産調査の権限に関してだけでも、民事の私債権の回収の際の資産調査を国税徴収の資産調査に近づける必要があるのではないかと考えます。

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