2026年6月7日、家族旅行で日本を訪れていた20歳のアメリカ人男性が、京都市内の山中で遺体で発見されました。
参考: https://news.yahoo.co.jp/articles/1d604c757584c041018e06dee9e0e617c047693f
当社にも、こうした状況に置かれた海外のご家族から、ご家族が日本で行方不明になったというご相談が寄せられることがあります。しかし、突発的に姿を消した人物を緊急に捜索するという案件で、民間調査会社が初動調査で行える範囲は驚くほど限られているのが実情です。私たちはお力になりたいという思いと、現実にできることとの間にある隔たりに、そのたびに苦しい思いをします。
海外にいるご家族。日本で連絡が途絶えたご子息やご息女。電源の切られた携帯電話。何かが深刻におかしいという、募るばかりの不安。そして、動ける時間がほとんど残されていないという現実。お電話やお問い合わせフォームの向こうには、いつもそうした切迫した状況があります。
こうした案件では、ご依頼者が私たちに期待することと、日本の法律が実際に認めていることとの隔たりが、最も大きく開く相談でもあります。その隔たりがどこにあるのか、そして危機にあるご家族のために日本の民間調査会社が今なお果たせる現実的で建設的な役割とは何かを、私たちはあえて率直にお伝えしたいと考えています。
期待とのギャップ
緊急の失踪についてご家族からご連絡をいただくとき、皆さまはたいてい「調査会社にできること」について同じようなイメージを抱いて来られます。それは多くの場合、映画やテレビ、そしてご自身の国の、日本とはまったく異なる調査環境によって形づくられたものです。
具体的には、次のようなことができるはずだと期待されます。
- 道路・駅・車内・店舗の防犯カメラ映像を取り寄せ、移動経路を追う
- 携帯電話の位置情報の履歴を通信事業者から取得する
- 交通系ICカード(Suica・ICOCA・PASMO)の利用記録から、どの駅を通ったかを読み取る
- クレジットカードの利用明細を確認し、購買の動きをリアルタイムで追う
これらの情報がひとつでも手に入れば、行方不明者の捜索範囲は「日本のどこか」から、特定の沿線、特定の都市、ときには特定の地区へと一気に絞り込まれます。だからこそご家族はそれを求められるのです。しかし日本では、これらはいずれも民間調査会社の手がほとんど届かない領域です。
なぜそのデータにアクセスできないのか
これは私たちの技量や人脈、あるいは努力を惜しむかどうかの問題ではありません。制度上の構造的な問題です。「やる気がないからお断りしている」わけではないことをご理解いただくために、少し丁寧に説明させてください。
日本の調査会社は、探偵業法のもとで営業しています。この法律が何であって何でないのかを知ることが大切です。探偵業法は、私たちに各都道府県の公安委員会への届出を義務づけ、業務上の行為を規制し、業界による濫用から消費者を守るための法律です。その一方で、特別な調査権限も、データへの優先的なアクセス権も、私たちにはいっさい与えていません。ご家族が求める情報は、全て法律で開示が許可されていないものばかりです。
通信の秘密 ― 通信の秘密は憲法で保護され、電気通信事業法によってさらに裏づけられています。通信事業者が、位置情報や通信記録を民間の一私人に開示することはできません。
個人情報保護法(APPI) ― 鉄道会社、小売事業者、金融機関、防犯カメラの運用者は、それらの記録を個人情報として保有しており、適法な根拠なしに第三者へ引き渡すことはできません。調査会社からの私的な照会は、その根拠にはあたりません。
映像の私的管理 ― 道路・駅・車内・店舗の防犯カメラ映像は、各事業者の所有物です。事業者がそれを開示するのは、捜査を行う警察に対してであって、私たちに対してではありません。
この背景には、より大きな構図があります。日本では、そして私たちの経験では東アジアのいくつかの国や地域でも同じように、国家は本来の意味での調査権限を民間に委ねることに一貫して慎重でした。制度の根底には、通信・金融・監視に関わる記録へアクセスする権限は、警察・検察・行政機関だけが持つべきだ、という前提があります。北米や欧州の一部では資格を持つ調査員が当然のものとしている地位やアクセス権を、日本の民間調査という職業が欠いているのは、まさにこの前提があるからです。これは私たちの職業にとって最大の構造的な制約であり、こうした緊急の案件でこそ最も痛切に感じられます。
ですから、不安でいっぱいの親御さんに「携帯電話の追跡も、防犯カメラ映像の取得もできません」とお伝えするとき、私たちは単に期待値を下げているのではありません。法制度全体にまたがって立ちはだかる、高く厚い「壁」の存在をご説明しているのです。
自殺や事故や事件の可能性のある緊急失踪案件では、警察が防犯カメラの映像を精査し、ご本人が最後に目撃された場所を特定し、捜索範囲を絞り込むことができます。この領域は、民間調査会社が代行できるものではなく、捜査機関に一任するしかない部分です。
もし捜査機関の初動調査で、 ご家族の 捜索範囲が絞り込まれれば、人海戦術として人間が アナログ的に動いていかなければならない状況になります。そうなれば、私たちは、人員の募集、ブリーフィング、担当区域の割り振り、日英のチラシの準備を支援し、海外のご家族と日本語を話す捜索者との現地の橋渡し役を担うことができます。
ソーシャルメディアでの情報提供の呼びかけ ― よく練られた日英二か国語の呼びかけは、海外のご家族だけでは決して集められない手がかりを浮かび上がらせます。私たちは日本語側の運営を担い、寄せられる情報を整理・選別します。
資金集めの実施 ― ご家族が GoFundMe のようなプラットフォームを用いて、専門の捜索チームや現地の経費をまかなった例があります。
日米双方でのメディアへの働きかけ ― ご家族が自国の報道を動かすと、日本のメディアがそれに続くことがしばしばあります。粘り強く、かつ節度あるメディアの注目は、公的な捜査がその案件にふさわしい緊急性をもって取り組むよう後押しすることにもつながります。
これらの段階で必要なのは、調整力、語学力、現地の知識、そして現場にいうことです。それこそが、私たちが突然疾走した本人のご家族にご提供できるものです。
厳しい 現実実
以上のように、緊急の行方不明者捜索という場面で、日本の民間調査会社として対応できる範囲は非常に限られています。私たちはそのことを、正直にお伝えするしかありません。そして、「何もしないよりはマシ」といった気休めのようなサービスを売り込もうとは、私たちはまったく考えていません。
そのうえで、あえて私たちがお力になれることがあるとすれば、それは次のような領域です。ソーシャルメディアを通じた情報提供の呼びかけ、ニュースメディアへの働きかけ、そして警察の捜査状況とご家族とをつなぐブリッジ役。さらに、捜査によって捜索すべき地点がある程度まで絞り込まれた段階で、調査員の派遣やボランティアの捜索隊を組織するための呼びかけを行うこと。こうした対応であれば、私たちにも可能だと考えています。
メディアをどう動かすか、地元のボランティアにどう協力を呼びかけるか――その実務的な進め方をお示しし、ご家族の取り組みを後押しするコンサルティングサービスであれば、私達が喜んでご提供可能です。
もしご家族が日本で緊急の失踪に直面されているなら、最初の一歩は、つねに地元の警察に行方不明者届を出すことです。可能であれば、弁護士に同席してもらい、その案件が十分な深刻さをもって取り上げられるようにしてください。日本では、民間調査会社が緊急失踪者の初動の絞り込み調査を担当することはできないため、 捜査機関に、緊急失踪であることを的確に伝えること、そして早期の初動調査を開始するように求めることが、最も重要なこととなります。