インターネット上の写真から撮影場所を知りたいと思ったことはありませんか?美しい風景写真の撮影地を探したい、 や迷子・行方不明者の手がかりを見つけたい、報道写真の信憑性を確認したい。そんな時に役立つのが、写真のジオロケーション(位置特定)技術です。
この記事では、OSINT(オープンソース・インテリジェンス)の基本手法から、無料で使える画像検索ツール、さらには探偵による本格的な調査まで、写真から場所を特定するための包括的な方法を解説します。
OSINT(オープンソース・インテリジェンス)とは
OSINT(Open Source Intelligence)は、公開されている情報を収集・分析して実用的な知見を得る技術です。写真のジオロケーションは、OSINTの象徴的スキルの一つとして、報道検証、危機対応、企業調査など様々な分野で活用されています。
なぜ写真の場所特定が重要なのか
写真のジオロケーションは、以下のような場面で重要な役割を果たします:
報道検証 – ジャーナリストがSNSで拡散する戦場写真が本当に現地で撮影されたものか確認する際に使用されます。フェイクニュースや誤情報の拡散を防ぐ重要な手段です。
危機対応 – 救助隊が山火事や災害現場のセルフィーから場所を特定し、通報よりも早く現場を把握することができます。
企業調査 – 調査員がサプライチェーンの現場写真を裏付けたり、プレスリリース前の工場拡張を発見したりするために活用されます。
写真から場所を特定する基本原則
効果的な場所特定には、以下の基本原則を理解することが重要です:
原則 | 着目ポイント | 主なツール |
メタデータ確認 | EXIF GPSタグ、カメラ機種、タイムスタンプ | ExifTool、InVID-WeVerify プラグイン |
視覚的手がかり | 看板の言語、スカイライン、植生、車両ナンバー、影 | 画像ビューア、SunCalc |
コンテキスト検索 | 画像検索結果、SNSコメント、ハッシュタグ | Google Lens、Yandex Images |
地図マッチング | 道路グリッド、海岸線、山稜、建物の形 | Google Earth、OpenStreetMap |
無料でできる写真からの場所特定方法
誰でも無料で試せる基本的な手法から始めましょう。これらの手法を組み合わせることで、多くの場合で撮影場所の特定が可能になります。
誰でも使える無料・フリーツール一覧
- Google Earth / Maps
- ストリートビュー、3D地形
- https://earth.google.com/
- Yandex Images
- 旧ソ連圏などの画像検索
- https://yandex.com/images/
- TinEye
- 過去の類似画像を時系列で検索
- https://tineye.com/
- SunCalc
- 影・太陽位置の解析
- https://suncalc.org/
- InVID-WeVerify
- EXIF、リバース検索の統合ツール
- https://www.invid-project.eu/
- Bellingcat OSM Search
- OpenStreetMapの特徴物検索
- https://osm.bellingcat.com/
- Mapillary
- KartaView クラウドソース画像データベース
- https://www.mapillary.com/
- PeakVisor / PeakFinder
- 山稜ラインの照合
- https://peakvisor.com/
- EXIF.tools
- ブラウザでEXIF情報確認
- https://exif.tools/
「場所不明」から座標特定までの7ステップ
ステップ1:メタデータの抽出
写真のEXIFデータには、撮影場所のGPS座標が含まれている場合があります。exiftool -a -G photo.jpgを使用するか、InVID-WeVerifyプラグインの「Metadata」タブで情報を確認しましょう。GPS情報が含まれている場合、その地点を特定して調査を完了できます。
ステップ2:リバース画像検索で情報を収集
Google Lens、Yandex、Bing Visual Search、TinEyeなどの画像検索ツールに写真をアップロードし、写っている建物やランドマークの一致結果を探します。各ツールは異なるデータベースを使用しているため、複数のプラットフォームを活用するのが効果的です。
ステップ3:集合知を活用する
顔や個人情報をマスクした画像を、「r/WhereIsThis」やGeoGuessrのDiscordコミュニティなどに投稿し、他のユーザーからヒントを募りましょう。世界中の知識を活用することで、新しい手がかりを得られる可能性が高まります。
ステップ4:視覚的手がかりを分析
写真を拡大して、細部に注目しましょう。たとえば、「Кофе」(キリル文字)と「コーヒー」(カタカナ)を比較して地域を推測したり、左ハンドル車やユーカリの木を見つけて「オーストラリアの可能性が高い」など仮説を立てると、有益な手がかりになります。
ステップ5:地図で地形を特定
Google EarthやBellingcatのOSM Feature Searchを使用して、特徴的な地形や構造物を探してください。ジグザグの防波堤やY字路など、目立つ地形的特徴を使えば、該当するエリアを絞り込むことができます。
ステップ6:影と太陽の位置を分析
SunCalcやQGISの「Measure Angle」機能を活用して、写真に写る影の角度を調べることで、撮影時刻や方位を推定します。この分析は、さらに正確な位置特定に役立ちます。
ステップ7:調査結果の確定と記録
調査の信頼性と再現性を確保するため、思考プロセスを記録しましょう。スクリーン録画や注釈付きのキャプチャを残すことで、調査を明確にドキュメント化できます。正確で信頼できるOSINT(オープンソース情報)調査には、詳細な記録が欠かせません。
Google画像検索を活用した基本的な手法

Google画像検索は最も手軽で効果的な方法の一つです。以下の手順で効果的に活用できます:
- Google画像検索ページにアクセス
- カメラアイコンをクリックして画像をアップロード
- 検索結果から類似画像や関連情報を確認
- 必要に応じて画像の特徴的な部分を切り取って再検索
写真全体ではなく特徴的な部分を切り取って検索したり、検索フィルターを活用することで精度を高めることができます。検索結果の「類似の画像」や「この画像に関連するページ」も重要な手がかりとなります。
専門画像検索ツールの活用
Yandex Images
ロシアの検索エンジンYandexの画像検索は、特に人物や物体の認識精度が高く、旧ソ連圏など西側検索エンジンが弱い地域の画像検索に優れています。他の検索エンジンで見つからない場合に試してみる価値があります。
TinEye
TinEyeは逆画像検索に特化したサービスで、過去の類似画像を時系列で検索できます。画像の初出や使用履歴を追跡することができ、古い画像や著作権に関する情報を調べる際に特に有効です。
その他の有用なツール
– SmallSEOTools画像検索: 複数の検索エンジンの結果を同時に表示
– Yahoo!画像検索: Googleとは異なるアルゴリズムで違った結果を提供
SNSと位置情報の活用
SNSでの情報収集
写真の背景に写っている店名や建物名をキーワードにして、SNSで検索する方法も効果的です。Instagramの位置情報検索やTwitterのハッシュタグ検索を活用することで、同じ場所で撮影された他の投稿を見つけることができます。
位置情報の制限について
スマートフォンで撮影された写真には通常EXIFデータが含まれており、その中にはGPS座標も記録される場合があります。ただし、プライバシー保護の観点から、多くのSNSプラットフォームでは投稿時に位置情報を自動的に削除しています。一部のTwitter投稿やブログ記事の画像では位置情報が残っている場合もありますが、これは稀なケースです。
地理的特徴とランドマークの分析

写真に写っている建物、山、五重塔などの特徴的なランドマークを手がかりに場所を推測する方法も有効です。特に日本国内の写真であれば、特徴的な建築物や自然の景観から地域を絞り込むことができます。
Googleマップの「ストリートビュー」機能を使えば、推測した場所の実際の景観と写真を比較でき、撮影場所の確定に役立ちます。また、Googleマップの衛星写真と航空写真も、建物の配置や地形の確認に有用です。
プロ向け・エンタープライズ級調査プラットフォーム
高度な調査が必要な場合には、プロフェッショナル向けのツールも存在します。多くは企業・政府機関限定で高額な契約が必要ですが、その機能を理解しておくことは重要です。
専門調査ツール
- Skopenow: SNSジオロケーション+人物特定自動化
https://www.skopenow.com/?utm_source=perplexity
- AI: 交通カメラ画像から車種・車両属性をAI判定
AI技術の進歩と次世代 Geo Location (ジオロケーション)
大規模ビジョンモデルの発展により、写真を数秒で大陸どころか都市レベルまで推定できるようになりました。コミュニティプロジェクトPicarta(https://picarta.org/)やOSINT Live 2024の研究デモでは、ベンチマークで90%超の精度を達成しています。
人間による確認は依然として不可欠ですが、AIが検索範囲を劇的に絞り込む力を持っており、調査効率の大幅な向上が期待されます。
探偵による専門的な場所特定調査

無料ツールで特定できなかった場合の次のステップとして、探偵への依頼という選択肢があります。プロの調査員による本格的な調査では、一般の方では難しい方法を使って場所を特定することが可能です。ただし、どの探偵でも対応できるわけではなく、OSINT調査に特化した調査会社を探す必要があります。日本ではOSINT調査の手法がまだ普及しておらず、このような調査に特化した調査会社は非常に少ないのが現状です。
探偵の調査手法と優位性
探偵による場所特定調査では、一般の方が使える無料ツールとは異なる専門的な手法が用いられます。現地での聞き込み調査、専門的なデータ分析、探偵業界のネットワークを活用した情報収集など、多角的なアプローチで調査を進めます。
探偵は調査のプロとして、わずかな手がかりから情報を読み取る技術と経験を持っています。写真の構図、影の角度、建物の特徴など、一般の方では見落としがちな細かい情報も調査の手がかりとして活用します。
限られた情報からの特定能力
探偵による調査の強みは、限られた情報からでも系統的に調査を進められることです。例えば、写真に写っている車のナンバープレートの地域名、電話番号の市外局番、看板の文字の特徴など、様々な要素を組み合わせて場所を絞り込んでいきます。
さらに、探偵業者によっては、日本国内や国際的な同業者とのネットワークを持っていて、遠方の調査であっても現地の協力者を通じて効率的に情報収集を行うことができます。
探偵調査の費用相場
探偵による場所特定調査の費用は、調査の難易度や必要な時間によって大きく変わりますが、一般的には1回の調査で数万円から数十万円程度が相場となっています。
多くの探偵事務所では無料見積もりを提供しているため、まずは相談してみることをお勧めします。調査内容や期間、必要な人員などを詳しく検討した上で、適切な費用を提示してもらえます。
倫理・法的ガイドラインと注意点
写真からの場所特定を行う際は、必ず以下の倫理・法的ガイドラインを遵守することが重要です。
プライバシー保護の徹底
プライバシー法の遵守 – 顔や車両ナンバーを共有する前に必ずマスク処理を行い、個人のプライバシーを保護しましょう。
個人情報保護法の遵守 – 調査が個人情報保護法やプライバシー侵害にならない範囲で行われることを確認し、正当な目的での調査であることを明確にする必要があります。
調査の信頼性確保
証拠保全の徹底 – 裁判所やコンプライアンス部門は再現性を重視します。調査過程の詳細な記録を残すことが重要です。
さらなる学習とスキル向上のために
写真からの場所特定スキルを向上させるための学習リソースをご紹介します。残念ながら、日本語のリソースはなく、英語のみとなります。
実践的な学習機会
- Bellingcat Geo Locations https://www.bellingcat.com/
- カフェ写真から紛争地まで、様々な難易度の問題で腕試しができます。
- GeoGuessr (https://www.geoguessr.com/) やMastodon (https://mastodon.social/) の#OSINT
- コミュニティの群衆の知恵を活用して学習速度を加速させることができます。
情報収集とネットワーキング
- Sector035 (https://sector035.nl/) の”Week in OSINT”ニュースレター
- 新しいツールや事例を毎週チェックできる貴重な情報源です。
- 専門コミュニティへの参加
- OSINT研究者やジャーナリストのコミュニティに参加することで、最新の手法や事例を学ぶことができます。
まとめ:適切な手法選択で効果的な場所特定を
写真から場所を特定する方法には、無料で試せるOSINT手法から専門的な探偵調査まで様々な選択肢があります。まずはGoogle画像検索やSNSの活用など、無料で利用できる方法を体系的に試してみることをお勧めします。
これらの方法で特定できない場合や、より確実な結果が必要な場合は、探偵への依頼を検討するのも有効な選択肢です。ただし、どの方法を選ぶ場合でも、違法行為にならない範囲で調査を行い、個人のプライバシーを尊重することが最も重要です。
適切な手法を選択し、倫理的なガイドラインを遵守することで、安全かつ効果的に写真からの場所特定を行うことができます。困った時は専門家に相談することも重要な選択肢の一つとして覚えておきましょう。