海外M&Aにおける不正リスク調査に役立つ3つのマップ 最も安全な国と危険な国は?

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M&Aや取引におけるデューデリジェンスでは、契約条件面、財務面、危機管理面等、様々な側面でのチェック項目があります。しかし、日本では財務面ばかりが重視される傾向にあります。この記事では、国内では扱われる機会が少ないものの、国際的なM&Aや取引においてとても重要な危機管理面でのデューデリジェンスに注目し、3つのマップを使って解説していきます。

海外M&Aにおいて不正リスク調査が必要な理由

国際的なデューデリジェンスでは、国によって様々な不正の危険性を孕むため、危機管理面でのデューデリジェンスが必要不可欠となっています。しかし、日本では、以下の問題点があります。

  • 契約条件や財務面のデューデリジェンスのみを行い、危機管理面のデューデリジェンスが疎かになっている
  • 情報開示の法整備が進んでおらず、危機管理面のデューデリジェンスがやりにくい

では、海外進出や取引の際に起こり得るリスクを回避するためには、どのような点をチェックする必要があるのでしょうか。今回は、海外M&Aや海外取引における不正リスク調査の指標となる3つのデータをご紹介します。

世界の汚職の抑制スコアランキング

World Justice Projectによって発表された汚職の抑制スコアは、「賄賂」「公共または民間部門による不適切な影響力」「公的資金などの横領」の3種類の汚職がいかに抑えられているかという、抑制度を総合的に考慮したスコアです。

スコアが高ければ高いほど汚職はコントロールされており、国家としての腐敗度が低いということになります。

以下は、汚職の抑制スコアが最も高い国と低い国のリストです。(スコアが同じ国は、World Justice Projectが設定した総合的な順位に沿ってランキングにしています。)

汚職の抑制スコアが高い(汚職が少ない)国トップ10

1位デンマーク0.95
2位ノルウェー0.95
3位シンガポール0.91
4位スウェーデン0.91
5位フィンランド0.89
6位オランダ0.88
7位ニュージーランド0.87
8位香港0.84
9位カナダ0.83
10位イギリス0.82
13位日本0.82

汚職の抑制スコアが低い(汚職が多い)国トップ10

1位コンゴ0.16
2位カンボジア0.24
3位カメルーン0.26
4位ウガンダ0.26
5位ボリビア0.27
6位マダガスカル0.27
7位ケニア0.27
8位メキシコ0.27
9位ギニア0.29
10位モーリタニア0.29

日本は汚職の抑制スコアが高い国10位内ではないものの、0.82というスコアで13位にランクインしています。

世界各国オープンデータの比較 最も情報が透明化されている国は?

上のマップは、World Wide Web Foundationによる、Open Data Barometer – 4th Editionのデータを元に作成しました。オープンデータバロメーターとは、オープンデータへのイニシアチブが準備されているか、オープンデータプログラムの実装度、ビジネス、政治および市民社会におけるオープンデータの影響力をトータルで量ったスコアです。

腐敗や不正を防ぐためには、情報公開を義務化することが最も近道です。監視カメラがあれば万引きが発生しないのと同じ理由で、情報公開制度が整備されていると、不正や腐敗や癒着等、取引上好ましくない事項が発生しにくくなります。そういう意味で、情報公開の制度が整備されているか否かが、不正や腐敗等の取引リスクの高低にも影響を及ぼします。

公的情報の開示度が高い国トップ10

1位カナダ76
1位イギリス76
2位オーストラリア75
3位フランス72
3位韓国72
4位メキシコ69
5位日本68
5位ニュージーランド68
6位アメリカ64
7位ドイツ58
8位ウルグアイ56
9位コロンビア52
10位ロシア51

公的情報の開示度が低い国トップ10

1位シエラレオネ22
2位サウジアラビア25
3位グアテマラ26
4位パナマ30
5位中国31
5位コスタリカ31
5位トルコ31
6位パラグアイ34
7位南アフリカ36
8位インドネシア37
9位チリ40
10位フィリピン42

オープンデータ 日本と海外諸国の比較

データ上、日本は公開情報の開示度が比較的高い国と分類されています。しかしながら、調査の最前線にいる我々としては、このデータには疑問を抱きます。たしかに、上場企業のの情報公開にはさほど問題はないでしょう。しかし、非上場企業の情報開示に関しては、不透明な部分が多々あります。訴訟歴が裁判所で公開されない問題もあります。訴訟リスクや賠償金リスク等の確認ができず、完全な形でのデューデリジェンスができない国となっています。以下に、日本の情報開示の問題点を挙げます。

  • 法人登記簿に株主名が登録されない
  • 法人役員に関しては氏名しか登録されず、身元がわかりにくい
  • 財務データの公開が義務付けられているが、実質ほとんど実行されておらず、罰則も適用されていない
  • 法人登記簿では、外国人氏名もカタカナ名で登録される
  • 訴訟記録が公開されず、訴訟や賠償金リスクの把握が困難である

日本ではこのような問題がありますが、他国の企業や取引相手のデューデリジェンスを行う際は、日本の常識にとらわれず、株主や実質的支配者の確認、役員の詳細な身元、訴訟リスク等も、漏らさずチェックを行う必要があります。逆に言うと、こうした国内の背景が影響し、日本企業は海外の法人や取引相手に対してのデューデリジェンスが甘くなってしまう傾向がありあす。海外進出や海外取引を行う日本のビジネスパーソンにとっては、グローバルスタンダードの観点から、何がデューデリジェンスの重要なチェック項目となっているか、改めて学習する必要があるかもしれません。

マネーロンダリング・テロ資金供給リスク 世界各国比較

マネーロンダリングとは

マネーロンダリングとは、日本語では「資金洗浄」といい、麻薬取引、詐欺、脱税、粉飾決算などの犯罪行為で得た収益を、口座を転々とさせることで出所をわからなくし、正当な手段で得た資金と見せかける(綺麗に見せかける)行為のことです。
上のマップは、バーゼルAML指数として知られている、マネーロンダリングおよびテロ資金供与リスク、汚職レベル、財務会計基準、政治的な収支公開度、法の支配度などを合わせて総括的なリスクのスコアを計算したデータの最新版を元に作成しました。

マネーロンダリングおよびテロ資金供与リスクが高い国トップ10

1位モザンビーク8.22
2位ラオス8.21
3位ミャンマー7.93
4位アフガニスタン7.76
5位リベリア7.35
6位ハイチ7.34
7位ケニア7.33
8位ベトナム7.30
9位ペナン7.27
10位シエラレオネ7.20

マネーロンダリングおよびテロ資金供与リスクが低い国トップ10

1位エストニア2.68
2位フィンランド3.17
3位ニュージーランド3.18
4位北マケドニア3.22
5位スウェーデン3.51
5位ブルガリア3.51
7位リトアニア3.55
8位ウルグアイ3.58
9位スロベニア3.70
10位イスラエル3.76

驚くべきことに、日本は調査が行われた125ヵ国中、5.02でリスクが高い国73位にランクインしています。

日本と世界 資金洗浄の実態

日本は、西洋諸国と比較するとマネーロンダリングの危険性の意識が低く、マネーロンダリングの基礎知識ですら一般的に浸透していない感があります。西洋諸国の方が、日本より資金洗浄の手口の研究や規制が強化されており、デューデリジェンスを怠り、資金洗浄に関与する組織と取引してしまうだけで、重大な罰則や損害を被ることになります。

たとえば2019年に、ナイジェリア人の詐欺グループがアメリカで詐取した3700万円が、日本国内の金融機関で資金洗浄された事件が発生しています。合法的な取引にみせかけた、貿易ベースのロンダリングの手口もあるのですが、日本ではあまり周知されていないのが現状です。

日本では、以下の法律で資金洗浄行為が禁止されています。反社会勢力の活動や麻薬取引の資金洗浄には一定の効果をあげていますが、これらの法律だけでは、世界基準のマネーロンダリング規制が徹底されているとは言えないでしょう。

  • 麻薬特例法。規制薬物取引に関する資金洗浄行為
  • 組織犯罪処罰法。組織的な資金洗浄行為(敵対的企業買収の資金隠蔽含む)
  • 本人確認施行令。現金でのATM振り込みは10万円以内、本人の身分確認の義務化
  • 犯罪収益移転防止法。金融機関の顧客管理の強化等

マネーロンダリングの規制が進んだ主要国では、犯罪や詐欺や密輸のみならず、脱税、贈収賄、テロ資金調達等の資金洗浄にまで規制が施されています。マネーロンダリングの対象となる資金は、英語ではProceeds of crime(犯罪収益)と呼ばれます。世界基準での、代表的な資金洗浄の手口は以下となります。

スマーフィングまたはストラクチャリング

犯罪収益を小分けにし、少しずつ銀行に預金していく方法です。大量の入出金があれば、銀行から注意されます。ただし、最近では少額の入金であっても、あまりに回数が多かったり、長期に渡っていると注意を受ける場合があります。また、一般市民に報酬を支払って入金を代行させ、リスクを分散する手口も出てきています。

不動産ロンダリング

犯罪収益の現金で、不動産を購入する方法です。購入後、利益確定のためにすぐに売却します。

カジノロンダリング

犯罪収益で、カジノのチップを購入することで資金洗浄する手口です。チップを購入した時点で、犯罪収益の出どころがわからなくなります。

国境を越えて資金を密輸し、外国の銀行口座に入金する

資金の密輸の際に発覚する危険性がありますが、一度、国外へ資金が出てしまえば、犯罪収益の事実が完全に消えます。国外の銀行口座から、スマーフィング等の手口で、本国へ戻されます。

貿易ベースのロンダリング

貿易取引の価格、数量、品質等を不正操作し、通常の商取引に見せかけて、資金移動する手口です。あとから取引実態を証明するための変造された契約書や請求書を用意することで、発覚しにくくなります。ただし、急激に事業利益が増加した場合等、その法人の活動が監督官庁の注意を引く場合があります。

まとめ:グローバルな目線で、危機管理を徹底しましょう

日本は、司法制度や商習慣に関して国内で完結する傾向が強く、国際的な危機管理対策に遅れをとってしまう傾向があります。腐敗、不正、癒着などに対する腐敗防止法やマネーロンダリングに関する規制法に関しては、欧米の主要国で規制が強化されている一方、日本ではそうした世界の潮流についての知見が周知されているとは言い難い状況があります。

取引相手やM&Aの相手が拠点とする国の、透明性や情報公開の度合いなどを分析し、取引前に適切なデューデリジェンスを行って、最大限に危機を回避する努力を行わなくてはなりません。日本国内の常識や商習慣にとらわれすぎて、グローバルスタンダードなデューデリジェンスを怠ると、意図せず不正やマネーロンダリングに加担してしまう可能性があります。この記事で掲載しているディリジェンスマップを、危機管理対策の参考として役立てていただけると幸いです。

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