ゴーン会長を逃したアメリカの親子探偵

Japan PI >> ブログ >> 事件の解説 >> 現在のページ
Ghosn

2019年年末、刑事裁判中の元日産会長、カルロス・ゴーン氏が日本から脱走しました。その脱走を手助けしたアメリカの探偵親子が、2021年3月に日本で逮捕されました。この事件にはいくつか探偵業に関わりのある要素があります。今回はそのニュースの解説です。

日産が雇った尾行調査員を排除

2019年当時、保釈中のゴーン会長は、日本国内の外出は可能でした。しかし、パスポートや通信機器は取り上げられていました。そして連日、日産が雇った調査会社の尾行調査員が、ゴーン氏を監視していました。

ゴーン氏も尾行されていることには気づいていましたが、黙認していました。

ゴーン氏は密かにレバノンを拠点とするアメリカの探偵会社親子に連絡を取って、脱走計画を練っていました。探偵親子は、脱走前に8回、ゴーン氏と接触していました。そして、連絡用の携帯電話を密かにゴーン氏に渡しました。2019年年末に脱走する計画が固まると、ゴーン氏は尾行している探偵調査員を排除することにしました。排除といっても、それまで黙認していた尾行について、警察に訴えるだけです。

探偵の尾行は、対象者が気づいていないことが前提で認められます。対象者が気づけば、尾行自体が違法行為とされます。都道府県条例のつきまとい行為や、軽犯罪の不退去罪、そして探偵業法の「生活の平安を乱してはならない」という規定に抵触するからです。

ですから、尾行している探偵を追っ払うには、警察に探偵が尾行していることを訴えれば、それだけで済みます。尾行を継続して逮捕されるわけにはいきませんから、探偵側は尾行を中断するしかありません。

脱出大作戦

ゴーン氏を監視する探偵調査員がいなくなった後、アメリカの探偵親子による大脱走計画が実行されました。お父さん探偵ともう1名の仲間は、関西空港から日本に入国しました。息子探偵は東京六本木のハイアット東京ホテルを予約し、ゴーン氏がその部屋に来ました。その後、お父さん探偵たちが大型の楽器ケースを持って大阪から東京へ駆けつけました。

そしてゴーン氏は、大型楽器ケースの中に入って親子探偵たちと関西空港へ向かい、プライベートジェットでレバノンへ逃げました。

親子探偵はこの仕事で約1億円 (US$862,500) の報酬を受け取っています。

親子探偵の正体

親子探偵のお父さんのマイケル・テイラー氏は、元グリーンベレーの隊員です。退役してから私立探偵になりました。お父さん探偵は元軍人ですから、レバノンに駐留していたこともあります。その経験を生かし、人質救出作戦を得意としていました。

私立探偵としては、片親により国外へ連れ去られた子供の奪還作戦を得意としていたようです。息子のピーター・テイラー氏が社会人になってからは、息子さんと親子探偵として活躍していました。

彼らは人質救出作戦を得意としていたので、建物や空港のセキュリティの抜け穴を見つけるのが得意でした。ゴーン氏の案件でも、プライベートジェットの関西空港でのセキュリティチェックが甘いことに気づき、その抜け穴を利用しました。

油断して日本でパクられた親子探偵

日本は、世界中でアメリカと韓国の2カ国としか犯罪人引渡し条約を締結していません。ちなみに、アメリカは世界70ヶ国、フランスは100カ国、韓国は25カ国と犯罪人引渡し条約を締結しています。これは、未だに日本に鎖国体質が色濃く残っていることを物語っています。

つまり、犯罪人引き渡し条約が結ばれていない国に逃亡しさえすれば、犯人は日本に連れ戻されることはありません。ゴーン氏の脱走を助けたアメリカの探偵親子も、それを知っていて、作戦完了後すぐにアメリカには戻りませんでした。

しかし、探偵親子はホームシックにかかり、2020年2月についに地元アメリカのボストンに戻りました。アメリカに長居するとろくなことがないので、2020年5月にレバノン行きの航空券を購入しました。しかし、それがアメリカ当局に発覚し、探偵親子はアメリカで逮捕されたというわけです。

その後、犯罪人引き渡し条約に基づき、テイラー親子は2021年3月にアメリカから日本に連行され、日本で逮捕されました。

訴訟記録における日米の違い

アメリカでは、訴訟記録が同時進行のものも含め原則、完全公開されています。しかし、日本は、原則、全て非公開です。

ゴーン会長大脱走をやったアメリカ親子探偵の案件では、日本政府は、犯人の身柄引き渡しを必死に求めていました。ですから、日本政府は、日本の警察の捜査資料を英語翻訳して、アメリカ当局に情報提供しました。

その記録は、アメリカ当局から、筒ぬけになり、一般人でも見れる状態になりました。アメリカの裁判所の記録は公開情報です。PACERというサイトに会員登録すれば、ダウンロードできます。

PACER(https://pacer.uscourts.gov/

Court Records of Michael and Peter Taylor

ただし、PAGERに会員登録する為には、手紙を受け取れるアメリカの住所がなければなりません。そういう意味では、アメリカの完全な訴訟記録は、アメリカ居住者限定で、公開されているということになります。

この点からわかるように、日本では、刑事事件の記録を第三者が確認できる仕組みがなく、警察や検察の主張が無条件に通る体質となっており、警察の違法捜査や間違いが是正されない土壌となっています。これが、日本の探偵業者が、刑事事件の調査を受任できにくい理由です。

まとめ

日本の探偵は浮気調査ばかりやっているというイメージが定着しています。しかしアメリカの探偵は人質救出作戦まで行ったりします。

実働約20日足らずの1回の案件の報酬が、1億円と破格だったりします。ゴーン氏を東京で監視していた調査会社は、1年間の連日調査だったとはいえ、1日の報酬はせいぜい10万円から15万円程度だったと思われます。

しかし、アメリカの親子探偵は油断してアメリカに戻ったことが仇となり、日本の刑務所に入る羽目になりました。因果応報でしょうか。

アメリカの訴訟記録調査は、JAPAN PIにお任せください。

関連する記事

信頼できる専門家による調査が必要ですか?Japan PIにお任せください

上部へスクロール
Scroll to Top