『探偵はBARにいる』|現役探偵の映画レビュー

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探偵はBarにいる

今回は、2011年に公開された『探偵はBARにいる』についてレビューします。最近の映画のなかでは、日本でもっとも知名度のある「探偵もの」だと言えるかもしれません。十年前の映画ではありますが、ネタバレを含む内容なのでご注意ください。

この映画では、現実のリアルな探偵業の再現よりも、ミステリアスなストーリー展開に重点が置かれています。それでも、映画の中の探偵は、状況に応じて、肩書きや目的を偽装して聞き込みをやっています。その点は現実の探偵業でも同じです。

聞き込み①:弁護士への特殊取材

映画の探偵は、依頼人から以下のような依頼を受けます。ある弁護士に、「加藤」という人物についての印象を聞き、その反応を確認してほしい、というものです。

探偵は中小企業の社長を装い、新規事業の法的アドバイスを受けたいという設定で、弁護士にアポイントを取りました。面談の中でさり気なく、探偵は加藤について話を聞きます。

弁護士は、「そんな人知らない」と答えました。しかしその後、探偵は、弁護士から連絡を受けた暴力団によって、襲撃を受けてしまいます。

聞き込み②:変死した半グレの遺族へのコンタクト

別の場面では、暴力団の地上げを巡る、放火殺人事件の実行犯と目される半グレの少年が、シンナー中毒で変死しました。

探偵は、半グレ少年の両親に聞き込みすることにしました。探偵は、ボランティア団体の「シンナーから子供を守る会」の職員を装って、半グレ少年の母親に会いに行きます。

「地上げをめぐる放火殺人の真相探りたい」と言う名目で両親に会っても、素直に話してくれる確率はかなり低いです。そのため、探偵は肩書きや目的を偽装して両親に接触しました。

聞き込み③:街宣右翼への取材

探偵は、前出の変死した半グレ少年が右翼団体に関わりを持っていたことを突き止め、その右翼団体の内情を知るために突撃しました。この時は、フリージャーナリストを装って、右翼団体についての報道記事を出したいという設定を使いました。

様々なカモフラージュ

物語の中の探偵ですが、被取材者からうまく話を聞き出すために、肩書きや目的を様々にすり替えて聞き込みをやっています。このようなカバーストーリーを考え出して、被取材者が話しやすい状況を作ることも、探偵の聞き込みのテクニックのひとつです。そのままの目的や肩書きでは、聞き込みの成功率は上がりません。

また、ケースによっては、依頼者の身元を隠さなければなりません。依頼者の身元をいかに隠しつつ、聞きたい内容を聞き取るか、そのバランスが難しいと言えます。

現実の探偵ではタブーな部分

映画はあくまでもフィクションですから、「リアルじゃない」というだけでケチをつけるつもりは全くありません。フィクションの中の探偵と、現実の探偵の違いを紹介するという目的のために、映画の中の「現実的にはありえない」設定についてお話しします。

身元不明の依頼者からの受任

映画の中の探偵は、偽名を名乗っている女性から調査依頼依頼を受けています。しかし、探偵業法では、契約時に重要事項説明や契約書を依頼者に交付し、被害者からは調査結果を違法または犯罪行為に使わない旨の誓約書面を受けることになっています。つまり、匿名や偽名の依頼者からは、依頼を受けることができません。

また、物語の中では、探偵が特定した調査対象者を、依頼者が射殺します。そんなことが後で発覚すれば、探偵は当然警察から事情聴取を受けます。その時に契約署名などがなければ、探偵業法違反で行政処分を受ける可能性があります。

禁固刑以上で起訴されると探偵業登録取消

映画の中で、探偵が拳銃を所持している場面がありました。銃刀法違反が見つかれば、禁固刑以上の刑罰を受けるでしょう。そうなると探偵業の登録が取り消されます。その後、5年間探偵業の登録が不可能になります。

ただし、従業員として他の探偵社に勤務する場合は、個人での探偵業登録をする必要はありません。そうなってしまっても、抜け道がないわけではありません。映画の探偵は、形式的に相棒の助手を代表者として探偵業登録させます。そのようにして、自分が助手になって、活動を継続すればいいのです。

暴力団からの依頼

映画の探偵は、暴力団から家族の監視調査を依頼されています。探偵業に限ったことではありませんが、これは暴排条例の違反となります。

映画のなかで探偵に調査を依頼した暴力団は、善良な暴力団でした。しかも、暴力団組長の娘の行動監視を依頼されているだけでした。どちらかと言うと同情すべき問題ですが、法律的にはアウトです。善良でもなんでも、暴力団として指定されている以上、取引を行うと暴排条例違反だからです。

依頼者が暴力団であることが事前に分からなかった場合、仕方がないと言えたかもしれません。しかし、映画の探偵は暴力団であることを知って依頼を受けているため、発覚すれば問題になります。

まとめ

映画の中の探偵と実際の探偵には、イメージのギャップが多数あるのは当然です。実像をそのまま映画にしても、エンターテイメント的要素が欠けてしまいます。

ただし、特に調査経験が浅い探偵の場合、映画やフィクションの中の探偵のスキルに、刺激を受けることがあります。また、依頼者は、映画の中の探偵をイメージして、依頼してくることもあります。実際の探偵は、その虚像の中の探偵と実務のギャップをしっかり説明し、映画の中の探偵ができることでも、実際には、法的な問題や物理的に実現できない調査手法や職務内容があることを説明しなければなりません。

探偵という職業にミステリアスな部分があり、実際の依頼者は、様々な不安と期待の混ざった感覚を持つことでしょう。実際の探偵業者は、そうした部分を理解し、虚像と実像の違いも含め、契約時の重要事項説明をきちんと行う必要があります。

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