海を越えた詐欺の手口
在日中国人による米国保険会社への生命保険金請求。一見正当に見える死亡証明書類の数々。しかし、その全てが精巧に作られた「偽造」でした。
国境をまたぐ取引であれば、米国側では偽造書類が露見しないだろう。仮に不正が発覚しても、米国から逃亡すれば捕まらないだろう――。そんな計算のもと、大胆な保険金詐欺が企てられていたのです。
当社が米国保険会社から調査を委託され、日本国内での徹底的な現地調査を実施した結果、この組織的詐欺の全貌が明らかになりました。
ケース概要
保険会社: United Life Insurance
被保険者: Chen Wei(陳 薇)氏、1998年3月7日生
保険証券番号: 202500559
保険契約日: 2023年4月22日
申告死亡日: 2025年1月9日
申告死因: 交通事故(東京)
調査期間: 2025年2月18日〜5月7日
本件は、保険契約から2年以内の請求であり、米国保険業界における「異議申立期間(Contestability Period)」内の案件として、全面的な事実確認調査が実施されました。
日本の2年ルール(不可争条項): 日本でも、保険加入から2年以内の請求は特別な審査対象となり、加入時の告知内容に虚偽があれば契約解除の可能性があります。
調査の展開
第一段階:受取人への聞き取り
保険金受取人Lin Jie氏(被保険者のいとこ)への聞き取り調査から、以下の情報を得ました:
被保険者の経歴
- 中国河南省出身、料理人として働いていた
- 2017年に政治亡命を申請して米国へ移住
- カリフォルニア州を経て、2022〜2023年にニューヨーク州フラッシングへ移住
- 最終住所: 16817 67th Ave, Flushing, NY 11365
死亡の経緯(受取人の証言)
- 休暇で日本旅行中に交通事故で死亡したと聞いている
- 詳細は中国にいる親族から伝え聞いただけで、直接の確認はしていない
- 加害者の状況や警察の捜査については詳細を知らない
この段階では、客観的な証拠は何も提示されませんでした。
第二段階:提出書類の検証
受取人から提出された3つの公的証明書について、2025年5月14日、日本の各関係機関で現地調査を実施しました。
偽造の証拠
1. 交通事故証明書の偽造
提出書類の記載
- 事故照会番号: 东京警察第210号
- 発生日時: 2025年1月9日 午前6時30分
- 発生場所: 東京都千代田区丸の内1-9-1
- 発行機関: 自動車安全運転センター 东京事務所
検証結果: 完全な偽造
自動車安全運転センター東京事務所の田中一郎課長による鑑定:
❌ 機関名の誤記: 「东京警察署」と記載されているが、正しくは「警視庁」
❌ 中国簡体字の使用: 「東京」が「东京」と書かれており、日本の公文書では使用されない
❌ 元号の誤り: 「平成37年」と記載されているが、平成は31年で終了
❌ 書式の不備: 日本の公式証明書にはない補足文章が記載されている
「即座に偽造と判断できました。書式も現在使用されていない古い形式に似せていますが、複数の致命的な誤りがあります」(田中課長)
2. 死亡診断書の偽造
提出書類の記載
- 死亡日時: 平成37年1月9日 午前6時30分
- 発行機関: 東京歯科大学市川総合病院
- 担当医師: 伊藤 大輔
検証結果: 発行事実なし
東京歯科大学市川総合病院 医事課 佐々木由美氏による確認:
❌ 診療記録の不存在: Chen Wei氏が同病院で診察を受けた記録は一切存在しない
❌ 発行事実の否定: 当病院がこの死亡診断書を発行した事実はない
「該当する患者様の記録は、当院のシステムに全く存在しません。この死亡診断書は当院が発行したものではありません」(佐々木氏)
3. 火葬証明書の偽造
提出書類の記載
- 火葬日時: 2025年1月10日 16:48
- 火葬場: 町屋斎場
- 発行者: 東京都荒川区 区長 中村誠
検証結果: 完全な偽造
町屋斎場 業務課主任 山本理恵氏による鑑定:
❌ 言語の不自然さ: 日本の公式書類としては異例なほど中国語が多く含まれている
❌ 書式の相違: 正規の書式と明らかに異なる
❌ 火葬記録の不存在: 2025年1月10日にChen Wei氏が火葬された記録は存在しない
「この書類を一目見て偽造だとわかりました。当斎場の正規書式とは全く異なります」(山山氏)
4. アポスティーユ証明書まで偽造
さらに、死亡診断書には東京法務局および外務省の公証印があるかのように見せかけたアポスティーユ証明書まで添付されていました。これは国際的な公文書の真正性を証明するための制度ですが、この証明書自体も偽造されたものでした。
詐欺の構造
本件で使用された偽造書類:
- 死亡診断書 – 医学的根拠の偽装
- 交通事故証明書 – 死因となった事故の偽装
- 火葬証明書 – 遺体処理の偽装
- アポスティーユ証明書 – 書類の国際的信頼性の偽装
これらの書類は、日本での死亡から遺体処理まで、一連のストーリーを構築するために周到に用意されていました。しかし、日本の公的機関での現地調査により、全てが偽造であることが判明しました。
調査の結論
Chen Wei氏の死亡保険金請求は、偽造された公文書に基づく組織的な保険金詐欺であることが明らかになりました。被保険者の死亡を証明する正当な証拠は一切存在しません。
日本における国際保険調査の課題
米国と日本の保険調査環境の違い
米国の保険調査
- 保険会社が積極的に調査を実施する
- 「ゼロ・トレランス・ポリシー」を掲げ、不正請求を徹底排除
- 保険調査が公然と実施され、新規顧客獲得のアピールポイントにもなる
日本の保険調査
- 情報管理体制が厳格で、警察・消防署・病院などからの情報収集が困難
- 保険詐欺が刑事事件化されにくく、民事解決される傾向
- 軽微な保険詐欺が社会的に容認されているかのような状況
- 同調圧力が強く、契約者を疑うことがタブー視される文化
- 保険調査を公開すると新規顧客獲得が困難になるという文化的ギャップ
国際案件特有の難しさ
国境をまたぐ保険詐欺の場合、犯人側は以下のような計算のもと犯行に及びます:
- 海外では偽造書類の真贋確認が困難だろう
- 言語・文化の壁が調査を阻むだろう
- 仮に発覚しても国境を越えて逃亡すれば捕まらないだろう
しかし、日本国内での徹底的な現地調査と、各関係機関との綿密な連携により、このような詐欺を暴くことが可能です。
まとめ
国際的な保険詐欺は、国境という壁を利用して巧妙に仕組まれています。しかし、現地での専門的な調査能力と、日本の制度・文化への深い理解があれば、これらの不正を確実に暴くことができます。
海外の保険会社が日本国内での調査を必要とする際、言語の壁、文化的な違い、法制度の複雑さが大きな障壁となります。Japan PIは、これらの課題を克服し、クライアントに信頼性の高い調査結果を提供することで、保険業界の健全性維持に貢献しています。
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本ケーススタディは、個人情報保護のため、一部の情報を変更して掲載しています。