探偵がテロの片棒:イラン人記者の拉致計画に利用されたアメリカ探偵

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2021年7月、イラン政府を批判した在米イラン人ジャーナリストをアメリカから拉致する計画を立てたとして、イランの諜報機関関係者ら4名が摘発されました。この事件で、身分を詐称したイランの諜報員からジャーナリストの行動調査依頼を受け、悪事に加担してしまったアメリカの私立探偵の存在が明らかになりました。

事件の概要

摘発されたファラハニ(ALIREZA SHAVAROGHI FARAHANI FARAHANI)、カゼイン(MAHMOUD KHAZEIN)、サデギ(KIYA SADEGHI)、ノーリ(OMID NOORI)の4名は、イランに居住するイラン情報機関員です。確認されただけでも2020年6月以降、ファラハニと他3名が管理する情報ネットワークは、イランの体制を批判する同国出身の米国市民(”被害者1″)をアメリカからイランへ誘拐することを企て、政権批判を封じ込めるイラン政府の方針を助長してきました。

“被害者1″の名前は公表されていませんでしたが、ニューヨーク州ブルックリン在住のジャーナリスト・作家・人権活動家であり、イラン政府の人権侵害を主張してきたマシー・アリネジャド氏が、”被害者1”は自身であるとTwitterで発言しました。

(情報ソース Washington Post Iranian intelligence agents plotted brazen abduction of Brooklyn dissident journalist, U.S. prosecutors say

騙されて拉致計画の手先された探偵

マンハッタン連邦検事が公表した告発によると、ファラハニ氏らが管理するネットワークは、2020年から2021年にかけて、”被害者1″を誘拐する計画の一環として、アメリカの私立探偵を利用しました。メンバーの1人のサデギ氏が私立探偵と連絡を取るための窓口になり、自身の身分や目的を偽って接触し、監視を行わせました。私立探偵は、ブルックリンにて”被害者1″とその家族を監視し、彼らの自宅やその周辺、彼ら自身に関するあらゆる写真やビデオを数日間に渡って撮影しました。

この私立探偵に接触する際、イランの諜報機関関係者は同盟国のベネズエラを経由して、アメリカのニューヨークの探偵業者にターゲットの所在特定と行動監視を依頼しました。

アメリカの私立探偵は、イラン諜報機関の真の目的は知らず、ベネズエラの依頼者から受注したものと認識して”被害者1″の監視を行いました。私立探偵は騙されてテロ行為に加担することになっていまいました。

この事件に関与した私立探偵が逮捕・起訴された情報は、報道にはありませんでした。しかし、悪事に加担してしまった以上は当然、FBIをはじめとする捜査当局から家宅捜索や尋問を受けたことは想像に難くありません。

諜報機関は現地探偵をてなづける

非民主主義的国家にとって、国家体制を批判する人物は、国家の公共安全を害する敵対分子となります。そして、そういう敵対分子を排除することが国策となり、軍・諜報機関・捜査機関の工作員が、暗殺・襲撃・拉致を実行します。

敵対分子が、国外に亡命したりしている場合、工作員達は、他国での特殊工作任務を遂行しなければなりません。その時、やはり、現地のサポートが必要になります。スパイ的な役割を果たす移民や国外滞在者を利用して情報収集をすることが多いでしょう。しかし、情報収集に関してのプロでない人物では、収集できる情報に限界があります。

そうした時に重宝するのが、現地の探偵業者です。探偵業者は、所在捜索、身辺調査、行動監視のプロですから、諜報機関の工作員からすれば、現地の探偵業者をうまく使いこなすのも仕事のひとつなのです。

探偵を踊らせるためのカバーストーリー

探偵業者は、ライセンスがあって業務を行っています。あからさまに不法行為のための監視活動とわかれば、依頼を受けません。そこで、諜報機関の工作員達も、周到なカバーストーリーを用意して、正当な目的のクリーンな調査依頼を装って、探偵にアプローチします。

襲撃や拉致のターゲットなる調査対象者の場合、対象者自身が民主化運動の政治亡命者など、知名度のある人物です。探偵業者も、相談が入った時点で、それに気づくでしょう。そこで、諜報機関側は、ターゲットの出身国からの依頼ではない形式にすることがよくあります。

今回のニュースの案件では、イランの諜報機関は、同盟国であるアルゼンチンの関係者に調査依頼の仲介を依頼しています。主要先進国以外の国家では、地理的に離れている小国どうしで同盟を結んでいることがよくあります。小国にとっては、地理的に離れた小国どうしで同盟を組むのが、植民地時代に、大国からの侵略を防御するための苦肉の策だったのです。その次代の名残が現代でも残っているということです。

まとめ

探偵業者にとってはとばっちりですが、不正な案件を依頼する依頼者は、巧妙なカバーストーリーを用意してくることがあります。調査対象者が政治絡みで狙われている可能性がある人物の場合は、特に注意しなければなりません。

探偵社は、真の依頼者が誰か、真の目的は何なのか、といったことを深く確認し、依頼を受けていいものかどうか慎重に判断する必要があります。そういった意味では、依頼者側も、安易に安請け合いしてくれる探偵よりも、多少面倒であっても、依頼者側のバックグラウンドをしっかりと確認する探偵と付き合う方が、賢明であるとも言えるでしょう。

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